なぜ、自然に売れてしまうのか
本書の登場する地域店はある共通項がある。それは「返報性の原理」を上手に活用していることだ。
返報性の原理とは、人から何かしら施しを受けたときに、「何かお返しをしなければ」と思う心理現象。例えば、「お中元」や「お歳暮」、「誕生プレゼント」などのお返し、友人にご飯をごちそうになったときに、「次は私がおごってあげよう」という気持ちだ。
この返報性の原理をお客との関係性の中で自然な形でビジネスやマーケティングに応用しているのである。
オール電化が登場し始めた2000年代前半。本書では触れてないが、IHクッキングヒーターが一般にまだ認知されてなかった時代、東京・町田のでんかのヤマグチ(山口勉社長)が店舗2階にIHに特化した料理教室を開設したのは有名なエピソードだ。
IHの見込み客を狙って開設したわけではない。IHの購入客を対象とした料理教室だ。「当時はIHが珍しく、IHを使った調理法やレシピなどを教えてくれたり、入手できるところはほとんどなかった。それでは購入していただいたお客様に申し訳ない。IHを100%、120%、150%使いこなして欲しいという思いでオープンした」(山口社長)。
同店のモットーは「お客様の要望を聞いてトコトン尽くす」。IH購入者の口コミが広がり、当時、同店は全国屈指のIH販売店になった。
東京都江東区の栄電気(沼澤栄一社長)は、地元である「亀戸」愛に溢れている。特に力を入れているのはコロナ禍で客離れに悩む飲食店のグルメ情報や紹介記事の発信だ。フェイスブックやツイッター、アナログツールのニュースレターなどで積極的に取り組んでいる。
地元商店街の飲食店を応援
特に、毎月1,000部発行しているニュースレターでは、亀戸の多くの飲食店にフリーぺーパーのように置かれるようになり地元でも愛される媒体になった。
地元の飲食店からはフェイスブックやニュースレターなどで紹介してくれているお礼にと、エアコン工事やメンテ、電気工事などの依頼が増えていると沼澤社長は話す。
同店はコロナ禍でもお客さんや地域のための活動を活発に行った。当時、市場ではなかなか手に入らなかった除菌水(次亜塩素酸水)を無料で配布したり、お花見で見られることなく散った桜の花びらのアクセサリーを作って無償配布したり、疫病退散の願いを込めたアマビエの塗り絵を配布してお客さんに喜ばれた。
松下幸之助が著した「商売心得帖抜粋」(松下流通研究所、現パナソニックマーケティングスクール)では、顧客づくりについてこう述べている。
お得意を広げたい。いま百軒あるお得意先を百十軒に増やしたいということは、商売をしている限り誰もが望むことでしょう。しかし、一口にお得意を広げるといっても、それは決してたやすいことではありません。そのためには、やはり日頃からいろいろの方策を考え、それを力づよく実施していく努力を重ねなければならないのは言うまでもないでしょう。
ただ、その一方では、日頃一生懸命に打ち込んでいれば、お得意先が求めずしてひとりでに増えるということもあり得ると思います。というのは自分の店のお得意さんが、とくに頼まなくても、みずから他のお客さんを見つけて連れてきて下さるということも、考えられるのではないかということです。