2019年は平均寿命が男女ともに延び、日本は世界屈指の「長寿国」となっている。その一方で、家庭内における高齢者の不慮の事故による死亡者数は1万1,987人(総務省統計局の人口動態統計、2019年)に及んでいる。
中でも、近年懸念されているのは全体の約17%を占める転倒や転落による死亡者数だ。階段で起こる転落事故は本人の生命に関わるだけでなく、事故後は寝たきり状態になったり、入院や介助も必要になるケースも発生する。
誰が高齢者を守るのか
高齢者はわずかな段差でも転倒しやすい。近年懸念されている家庭内の「転倒・転落」の事故件数は、床や廊下などでの転倒・つまづきが年間2,088件、階段・ステップからの転落は年間342件(2019年、人口動態統計)にのぼっている。
そこで注目されているのは、高齢者の転倒や転落事故を防ぐ階段リフト(階段昇降機)である。ドイツ「TK Elevator社」(旧ティッセンクルップ社)製の階段リフトを扱う「ホームエスカレーター&センシング」(東京都港区元赤坂、赤坂Kタワー)の佐々木高行社長はこう話す。
「階段リフトとは屋内外の階段の床面にレールを取り付け、それを伝わって電動で椅子が昇降する機器。曲線階段、直線階段、らせん階段など、さまざまな形状の階段に設置が可能です。
現状ではニッチ商品ですが、施設ケアから住宅ケアを目指す国の介護政策に沿った機器としてクローズアップ。戸建て住宅に住む高齢者の移動支援機器としてのニーズも高まっていて、意欲的に取り組む地域店さんが増えています」。
東京都江戸川区のムラマツ電商では、階段リフトとセットで監視カメラや手すりを提案し、合計150〜160万円のビジネスに結び付けた。「実は、この階段リフト、チラシがきっかけになって販売できました。電器店は高齢者の困りごとに丁寧に対応しているので、すぐ連絡をいただくことができました」(村松義員<よしかず>社長)。
階段リフトを設置したお客のSさん(東京都葛飾区、当時90歳)の自宅はビルの3階。外出するたびに29段もの外階段を利用しなければならない。
心臓病を患ってからはこれまで以上に階段の上り下りがきつくなり、自宅の売却を検討するほど悩んでいた。階段リフトのチラシはSさんにとって、まさに天から降ってきた宝物といえるかもしれない。
前述の佐々木社長もこう話す。「最近、導入された家族から丁寧な感謝レターをいただきました。お怪我されて介護が必要になったお母様はお手洗いが別の階にあるため、そのことで娘さんに迷惑を掛けているのでは…と気に病んでおられたんですね、
でも設置したその夜から、ご自身でお手洗いまで行けるようになって大変喜ばれたということです。お母様の尊厳を取り戻すお手伝いができたと嬉しくなりました」。
助成金制度を利用
川崎市多摩区のAでんきは店頭に階段リフトのデモ機を設置。高齢の見込み客に体験してもらい、取り扱いをスタートしてまもなく3台成約したという。
標準タイプの階段リフトの価格は家屋や階段の状況によるが、140〜150万円(屋内1〜2階段、取り付け工事費込み<メンテナンス1年間含む>)。
東京都江東区のSデンキでは、区の助成金を活用して階段リフトを設置した。
階段リフトは介護保険の適用外だが、助成金制度を設けている自治体は少なくない。ちなみに、東京都の場合、台東区(100万円、1〜2割負担)、江東区(80万円、1割負担)、江戸川区(200万円、1〜2割負担)など23区内で9区に助成金制度がある。