アフターコロナの店づくりとは
コロナ後の地域の家電専門店はどのような店になるだろうか。その店づくりに大きなヒントを与えてくれるのが、今年3月3日に約30年ぶりという全面的な改装を行った「ジョイ津山」(岡山県津山市、杉山圭司社長)だ。
新たな店づくのテーマは、「電気屋らしくない電器店」。加えて、お客と従業員が共に店づくりに積極参加する「共創」、お客と従業員の居場所を創る「場づくり」という考え方を採り入れた。
コロナ禍でリアル店舗の重要性が改めて注目されており、どのような店づくりを構想し実現させたのか。その舞台裏をのぞいてみよう。
7割が「リアル店舗で購入したい」
今年3月にマスク着用が任意になり、5月には新型コロナウィルスが感染法上、季節性インフルエンザと同じ「5類」になり日常が回復した。家電市場でのリアル店舗はどのように変化していくのだろうか。
コロナ禍ではオンラインショップが全盛だったが、アフターコロナではリアル店舗が復活しそうだ。コンピューターソフトの「アドビ」がアフターコロナの店づくりにおいて、リアル店舗で購入したいと思っている人が7割近くにのぼっていることが分かった。
こうした中で、店舗面積約40坪(132㎡)の「ジョイ津山」が3月3日、全面的に改装しオープンした。改装に先立って、杉山社長が目指したのは従来の電気屋のイメージにとらわれない自由な発想の店舗だ。
では、具体的にどのような店づくりを考えたのか。同店は昨年8月30日、杉山社長は従業員(男性2人、女性パート1人)と、店舗コンサルタント1名と店舗デザイナー1名、計6名で「ジョイ杉山リモデルプロジェクト」をスタートする。
プロジェクトは発言形式に制限を設けず自由に対話するフリートーキングという形で進めた。テーマは「新店舗でやってみたいこと」。初めはぎこちなかった会議も、時間が経過するなかで思い思いの店舗のイメージを話すようになる。
会議で出た主な意見は次のようなものだ。
・「来店するお客様はほとんど家電の困りごとや相談事。家電という目的ではなく、お客様が気軽にフラッと立寄れる店がいい」
・「生活雑貨やインテリア、本やレコードなどを置いて、お客様にリラックスしてもらう」
・「積極的に接客しないお店というのもお客様にとって居心地がいいかも」
・「お客様にお昼のランチや午後のお茶会などの場として提供できるようなおしゃれな店に」。
・「お客様にはヨガの先生や絵の先生らがいらっしゃるので、ヨガの出張教室や趣味の絵画教室を開くなど、お客様が自由に活用できるスペースを設置するのはどうか」
・「最近の家電はどんどん進化し生活に役立つアイテムが多い。商品を体験できる場所がないので、話題の家電を体験できるスペースを作りたい」
・「広い駐車場を上手に活用する。お客様に農家さんがいらっしゃるので、イベントでは朝採れ野菜市を開いたり、屋台のクレープ屋さん、弁当屋さんを呼んでみるのも面白い」
暮らしの中で旬の家電製品を訴求
売り場づくりでは次のような方向性を決めた。
・「お家のリビングやキッチンをイメージしたスペースを設けて、暮らしの中の家電製品を訴求する」
・「レンタルスペースを設けお客様に自由に使ってもらう」
・「イベントでは駐車場を有効に使う」
・「全体が住まいのイメージに統一するため、什器は既存のものをなるべく使わず家具店やインテリアショップ、ネット通販からも調達する」
・「商品をより良くみてもらうために彩光に優れ、見た目もよい照明器具を選ぶ」
・「お客様視点で旬の商品、話題の商品を揃え、できたら体験してもらうスペースを作る」
会議では売り場を飾る生活雑貨やインテリア、取り組んでみたいワークショップ (体験型講座)などの意見も沢山出たので紹介しよう。
・アクセサリー・陶器・ガラス・手作りカバン・観葉植物・ビンテージジーンズ、クレープ作り・パッチワーク・絵本・DIY・ネイル・レコード・本や雑誌・ドライフラワー・テラリウム作り・フリーマーケット・野菜マート・オーラルケア・レンタル棚など。
駐車場の活用案は「フリーマーケット」、「野菜マーケット」、「クレープや弁当、焼きイモなどの移動販売」、「リユース家電の販売」、「古本市」、「CD・レコード市」、「青空読書会」など様々な意見が出た。
主な売り場を紹介
では、実際の店づくりはどのようなものになったのか。主な売り場を紹介しよう。生活家電や季節商品、調理家電、AV機器など幅広い分野から展示商品を絞り込んだのが大きなポイントだ。
リビングルームを模したコーナーの主役は、ベージュ系のソファベッドとブラックのテーブルを設え、壁展示と壁掛け展示とした2台の大型テレビ。リラックスできる雰囲気づくりを醸し出そうと考えたコーナーだ。
テレビの壁掛け展示はお客の注目を集めた。「部屋を大きく使いたい」、「テレビがあるため家具や他の家電が自由に置けない」、「模様替えが思うようにできない」などの理由で壁掛けテレビにしたいというユーザーが増えているからだ。壁展示のディスプレーはテレビ需要を喚起する材料になるだろう。
ちなみに、壁掛け展示は付属スタンドを使わないため、展示品販売の際にはきれいな梱包のまま納品できるメリットがある。
キッチンコーナーはタカラスタンダードのシステムキッチンを揃えた。同社のキッチンは汚れが染み込まないホーロー素材。ゴシゴシこすってもキズがつく心配もなく、高温による焦げや変色も発生しないという杉山社長おススメの逸品だ。
ここではIHクッキングヒーターやレンジフードなどを備え付け、大きなテーブルやいすなどを用意。お客にお茶やコーヒーを振舞ったり、料理教室などに活用する。
キッチンコーナーの側にはアラジンのオーブントースターやシャープのヘルシオホットクックなど人気の調理家電を並べた。
誰でも気軽に使えるレンタルスペース
来店客の興味を引いたのが、倉庫を改装した誰でも気軽る使えるレンタルルーム。お客とのコミュニケーションスペースとして開設したものだ。
レンタル料金は1時間1,000円。4、5人で使えば1時間数百円の出費で済むのが魅力。現在、ヨガ教室をスタートしているが、絵画教室やパッチワーク、ゲーム大会などのイベントスペースとして、お客の要望に合わせて活用していく考えだ。
杉山社長は「ジョイ杉山リモデルプロジェクト」を振り返り、こう話している。
「改装店舗の大きなコンセプトはお客様と従業員が一緒になって店づくりに参加してもらうこと。店づくりは今始まったばかり。従業員のモチベーションも上がっており、これからはお客様の声を店づくりに反映させてお客様のコミュニティの場として店を育てていきたい」