地域店の差し迫った経営課題の一つに新規客の問題がある。顧客の高齢化が進む一方、これからの経営を支える若い世代の顧客が取り込めていないからだ。
そこで、石川県電器商業組合が着目したのは「子世代への接点づくり」。2018年5月、30〜50代の子世代にターゲットを絞り「でんきのつえ」というサイトを立ち上げた。親世代と離れた所で暮らす子世代の大きな心配事は「親の安否」。
結果、組合本部や組合店への相談コールが増加しビジネスにもつながっているという。汎用性のあるサイトなので現在、石川県をはじめ富山県、福井県、高知県の各商組が取り組んでいる。
遠い親戚より近くの電器店
でんきのつえを制作したイールアップ・ラボ(石川県金沢市)代表の中村泰久氏はこう話す。
「親から遠く離れていても、親の近くに知り合いがいなくても、親の住む近くにまちのでんきやさんがいたらどうだろう。何かあったらかけつけてくれるかもしれない、そういった仕組みがあれば子世代はそれを活用しようとするのではないかと考えました」。
子世代の大きくな心配事は遠くに住む親の安否である。親世代と離れて暮らす子世代は親の加齢に伴い、心配や不安が年々大きくなっていく。
「子世代自身は地域店を利用しないが、親のためなら地域店を利用してくれる可能性が高い。売り込むポイントは『まちのでんきや』という存在そのものだ」。この考えは石川県商組に強い共感をもって迎えられた。
高齢者の困ったを解決
同サイトのつくりは「高齢者の困った」に向けて、地域店がその解決策を子世代とともに考え提案するという形になっているのがポイントだ。
サイトを見た子世代は石川県商組や組合店に連絡し、石川県内に住む親世代の「見守り」を依頼する。依頼された組合店は親世代にリアルで訪問し、暮らしの困り事や家電製品の安全点検活動を行う。
組合店は子世代と継続的で良好な関係を構築し、これまで子世代が知らなかった『まちのでんきや』のメリットをアピールする。親世代とともに子世代の顧客も同時に開拓するのが狙いだ。
サイトでは石川県のマップが表示されており、そのマップから子世代のユーザーが親の住むエリアの組合店を検索できる。検索した組合店のホームページに飛ぶ仕掛けになっているのもポイントである。
店をチェックしたユーザーは、自分の親にサービスの詳細と検索した店の連絡先を紹介する。ユーザーあるいは親から依頼を受けた店は見守りサポーターとなり、親宅に出向くという流れだ。
子世代のクレームが消える
石川県商組青年部会長の上馬宏司氏はでんきのつえ効果についてこう話す。
「長野県のユーザーの事例ですが、こんなことがありました。金沢市(石川県)に身の回りが少し不自由な一人暮らしのお父さまが住んでおられるとのこと。
しかも連日の猛暑なのにエアコンが未設置。熱中症が心配なのでなんとか実家に出向いて父の安否とエアコンを設置してほしいという息子さんからの要望でした」。金沢市内に店を構える上馬氏が素早く対応したのは言うまでもない。
さらには、「でんきのつえ」サイトのアップによって、親世代が購入したエアコンや冷蔵庫などについて、価格が高い、特典がないなどといった家電量販店と比較した子世代の組合店へのクレームは影を潜めたという。
地元メディアや自治体なども応援
石川県商組は「でんきのつえ」効果を次のようにまとめている。
1.組合本部に子世代からの「見守り相談コール」が増えた
2.「でんきのつえ」経由で直接、組合店に子世代からの「見守り相談/依頼」コールが増えた
3.NHK金沢はじめ地元メディアの取材や自治体からの高齢者支援の協力要請が増えた
高齢者の「見守り」に焦点を当てた石川県商組のサイトは、組合だけでなく地域店自身のサイトづくりの参考にもなるだろう。