ユーザーのテレビの視聴メディアや視聴スタイルの変化で、ハードのニーズも大きく変化している。
GfKジャパンが今年5月に実施したインターネット調査「テレビ購入者の購買行動や使用実態」(n=約16,900)によると、全世代で動画配信サービスの視聴が増え、コロナ前の同社の2019年調査結果と比較すると31%から43%に増加した。
一方、テレビ放送の「地上波・BS・CSの視聴・録画」は88%から77%に減少。特に20代の若年層が目立ち83%から62%と21ポイントも減少した。
大画面好む動画配信ユーザー
画面サイズで最も多かったのは55インチで21%の構成比。購入前に使用していたテレビよりもワンクラス大きい画面サイズの製品を購入する傾向が見られるという。例えば、33〜45型のユーザーは55型が27%で最も多く、46〜52型のユーザーも55型が最も多いが、65型購入者も17%にのぼった。
画面サイズの大型化に伴い注目されているのが超高画質の「量子ドットテレビ」だ。量子ドット「(QD Quantum dot)」というのは直径が2-10ナノメートルという非常に微細な特殊半導体粒子。電圧などの外部の刺激によって伝導性を大きく変化させる性質がある。
量子ドットのナノレベルのサイズで色を調整できるので、光の波長を精密にコントロール(波長変換)でき、従来の蛍光体に比べて光のロスが少なく効率がアップする。
その量子ドット(QD)と有機ELを組み合わせたのが、「量子ドット有機ELテレビ」(QD-OLED)。また、量子ドットと液晶を組み合わせたのが「量子ドット液晶テレビ」(QLED)である。両者のディスプレイは従来以上に高度な色表現を実現する。
有機ELテレビの巻き返し
中でも、注目を集めているのは有機ELのQD-OLEDだ。これは青色OLEDを発光源とし、赤と緑は量子ドット層で変換し発色する構造である。赤・緑・青の3色で映像を表現するので、色再現領域をさらに拡大。あらゆる輝度で色鮮やかな映像に再現する。
LCD(液晶)パネルを使用する(QLED)と異なり、自ら光を出す自己発光(OLED)のため色再現力は高い。そもそも有機ELテレビの特徴は、黒が引き締まり、暗室ではコントラストの高い高画質な映像が得られる。動画解像度や視野角特性も液晶より有利という点だ。
QD-OLEDではさらに深い黒(漆黒)や鮮やかな色とコントラストを実現できるので、純度の高い発色が得られ明部でも色抜けしない。量子ドットはカラーフィルタに比べて減衰が少ないので視野角はさらに強いなどの特性を備える。総合的にみて、現在市販されている有機ELテレビの中では「最高峰の画質」といわれている。
QD-OLED(量子ドット有機EL)のパネル技術を開発したのは韓国サムスン。国内メーカーでは初めてソニーがQD-OLEDパネルを搭載したテレビを発売。ブラビアの新製品「XRJ-55A95K」と「XRJ-65A95K」の2タイプである。ソニーとサムスンが緊密に連携しブラビアの新モデルに搭載したものだ。
これまで高画質テレビは液晶テレビの「ミニLEDテレビ」や「マイクロLEDテレビ」などの新技術がリードしていた。サムソンの画期的な量子ドット技術によって、有機LEテレビが技術的な優位性を巻き返すかもしれない。
急浮上のチューナーレステレビ
ICT総研が昨年8月に発表した「2021年有料動画配信サービス利用動向に関する調査」によると、有料動画配信サービス利用者数(定額サービス)は2018年末には1,480万人となり、2023年末には3,710万人へ拡大すると予測している。
こうしたライフスタイルの変化に伴いテレビ市場で急浮上しているのが、テレビ放送の受信機が搭載されてないチューナーレステレビである。
ユーザー、特に若いユーザーにとって地上波やBSなどのコンテンツよりも、インターネット経由のコンテンツが重要だ。こうしたニーズをメーカーサイドではなく流通サイドがキャッチし製品化してヒットに結びつけたのは興味深い動きだ。
チューナーレステレビはネット配信動画やユーチューブ、ゲームなどに特化したモニターとして安価に購入できるが、それだけが人気の理由ではない。
チューナーレスなので国内最強のサブスクリプションであるNHKの受信料が要らないのも大きな理由である。民放を視聴したければ、民放の配信アプリ「TVer(ティーバー)」などをネット経由すれば視聴できる。
ちなみに現行のNHKの受信料は、地上波のみの契約が月額1,225円、地上波放送とBS放送の両方が見られる衛星契約が月額2,170円である。