家具業界と家電業界の強者、ニトリとエディオンの「資本業務提携」が注目されている。ニトリは家具や生活・インテリア用品の他、最近では「PB家電」の取り扱いを急速に増やしている。
一方のエディオンも業界で初めてという企画から製造、販売まで一貫した「PB家電」を手掛けている。両社ともメーカー機能を持ち、ユーザーの声をダイレクトに反映したモノづくりを展開できることが強みだ。大手の異業種同士の提携は今後の家電市場にどのような影響を及ぼすのだろうか。
資本業務提携のメリットは、「新規参入市場でも素早く事業を立ち上げられる」、「双方の技術やノウハウ、人材、生産設備などが共有できる」、「お互いの事業のシナジー効果が期待できる」などがある。
●エディオンのメリット
「商品の相互交流と商品ラインアップ拡充」が大きなメリットだ。具体的にいえば、ニトリの商材を活用した「集客力のアップ」である。
ニトリは単なる大手家具チェーンではない。「ホーム・ファニシング・ストア」という新しい業態を生み出した流通のイノベーターである。
この業態は家具の他にも、生活・インテリア用品、ホームファニシングなどの幅広い品揃えが特徴だ。幅広い品揃えの中で、主力の家具につなげる接着剤のような役割を果たしているのが、同社オリジナルの生活・インテリア用品だ。
特に、キッチン用品やバス・トイレ用品、洗濯・掃除用品、ダイニング用品などの生活用品では100円ショップ並みの低価格で、「お値段以上」のクオリティーで提供していることが、女性客の圧倒的な支持を得ている。
こうした商品を「撒き餌(まきえ)」に、ニトリは主力の家具販売につなげている。いわゆる「エビでタイを釣る」商法である。
ニトリの売り場がエディオンにやってきたらどうなるだろう。冷蔵庫や洗濯機などの生活家電や調理家電のコーナーでは、ニトリの生活用品の存在がきらりと光る。女性の集客力を高め、新規商材の売り上げとともに、ニトリの「エビタイ商法」の家電バージョンが期待できるかもしれない。
ニトリの生活用品は定評がある。大手ショッピングセンターや百貨店などが競ってニトリの店舗を誘致するのも、ニトリの生活用品という強力な集客商材があるからだ。
●ニトリのメリット
現在、家具業界の問題点として、「少子高齢化による市場の縮小」、「新設住宅着工件数の減少による大型家具需要の減少」「新築住宅の備え付け家具の普及」などがクローズアップされている。
5年後には家具販売のウエートは20%台に
意外と知られていないが、ニトリHDの売り上げ構成比で家具のウエートは低く現在33%程度である。似鳥昭雄会長自身、「家具業界は既に衰退産業。当社の家具の販売比率も5年後は20%後半に縮小するだろう」と話している。
では、衰退産業の家具に代わって、どのような分野に重点を置くのだろうか。同社は2013年から10カ年の中長期経営計画のなかで「事業領域の拡大」を掲げている。今回のエディオンとの提携で見えてくるのが、「家電事業」の拡充強化である。
ニトリが取り扱う家電はこれまで照明器具や調理家電、美容家電などの小物家電がメーンだったが、ここに来てエアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビなど、大型家電にも力を入れ始めている。
もちろん、大手家電量販と競合する国内・海外の大手家電メーカー商品ではない。同社が得意とするPB(プライベートブランド)での展開である。
PB家電市場には大手家電量販がこぞって積極的に参入しており、2025年には家電市場での販売構成比が3割に達するという見方もある。
ただ、現状のPB家電といえば、「オリジナルブランド」とうたいながら、中身はメーカー品に少し手を加えた程度の商品が多いのも事実。
エディオンの配送・サービス網に着目
そうした中で、ニトリがエディオンに白羽の矢をたてた理由は2つある。一つは業界で初めて企画から製造、販売までを一貫して手掛けた本格的なPB家電を目指している点。
PB家電の名称は「e angle(イー・アングル)」。商品コンセプトは「くらしを、新しい角度から」である。低価格帯、使いやすさ、機能性に加え、レトロなデザイン、カラフルな色合いなどにもこだわった。
2018年11月から冷蔵庫、衣類乾燥機、電子レンジ、洗濯機、ヒーター付きトイレ照明、コーヒーメーカーなどを販売している。
一方のニトリは家具業界ではPB家具の先駆。商品の企画から原材料の調達、さらに製造・物流・販売に至る一連のプロセスを、「製造物流小売業」という仕組みとして確立している。
両社の家電事業において、商品企画から販売まで両社の経営資源とノウハウを掛け合わせた「PB家電」は家電市場の台風の目になるだろう。
もう一つは、きめ細かなエディオンの自前の配送設置、修理・サービス網だ。ニトリ側からすれば、家電事業を本格的に展開する上での大きな差別化ポイントになる。
ニトリHDは2021年2月期の決算で、上場企業では最長といわれる34期連続の増収増益を果たした。2022年2月期も売上高8,115億円(前年比13.2%増)、営業利益1,382億円(前年比0.4%増)と、35期連続の増収増益を達成した。
来期も前人未到ともいえる36期連続の増収増益を目指すという。それを実現する強力なファクターの一つが、エディオンと共同で展開する「PB家電」の取り組みかもしれない。