定期借地権終了後にビルドはされない
家電に限らず流通では少子高齢化・地方過疎化が大きな影響をもたらすと言われている。比較的恵まれた都市部商圏でもネット通販利用の普及に伴いリアル店舗の役割を再定義する必要に迫られている。誰もが知っているこの問題だが、10年後といわず、ほんの数年後にもどのような風景が見られるのか、具体的にイメージしている人は少ない。
こと家電については、AV商品を中心に2020年の東京オリンピックに向け市場が盛り上がっていくだろう。では、オリンピック後の家電市場はどうなるのか――ここでは「2020年問題」と名付けて考察してみたい。
エコポイントや地上アナログ放送停波などの特需後は、需要の先取りによる反動でM&Aなど業界再編が活性化した。だが、「反動」という言葉は適切ではない。実際には、苦戦していた企業が一時延命され、反動期に急速に経営が厳しくなり決断を迫られた面が強い。
では、2020年以降の家電市場では何が起きるのか。個々の企業の問題ではなく、家電量販業界全体が、少子高齢化や地方過疎化の影響を改めて実感することになる。例えば現状苦戦している地方店舗は採算性が厳しくなり、閉店ラッシュとは言わないまでも、定期借地権終了後にビルドはされなくなる。
こうして店舗数減少に追い込まれれば、人員余剰が発生する。コスト高になれば店舗の採算性はさらに悪化する。結果として、地方に多店舗展開している企業の業績が悪化していく可能性が否定できない。
「出店こそ成長」という従来の成長戦略はもはや成立せず、ネット通販利用の拡大がこの傾向に拍車をかける。オリンピック後の需要減をきっかけに、地方の買い物インフラは、徐々に崩壊していくだろう。
採算ベースはますます厳しく
一方で、家電は詳しい人に相談して買うのでリアル店舗の重要性は変わらないとの反論もある。だが、大物家電ならともかく、AVや情報家電、さらには美容家電や調理家電は、必ずしも家電量販店でしか買えないわけではない。
ネットなら価格も安く、そしてわざわざ足を運ぶ必要もなく買い物できる。また、機能やデザインにこだわる人向けの家電には、「家電量販店では扱っていない」ことを売りにしている商品すら出てきている。
また、メーカーが生産台数を絞る中、リアル店舗に行けば必ず持ち帰れるとは限らない。すでに旗艦店の売上も、ピーク時に比べれば大幅に落ち込んでおり、店舗の採算ベースはどんどん厳しくなっている。
2020年問題とは、家電量販店が本当に必要なチャネルなのか、存在意義が問われることと言える。リアル店舗が必要とされるための努力もせずに、安易な判断で地方の買い物インフラを切り捨てれば、かつて地方でGMSが撤退した時のようにブランドイメージを大きく毀損することにもなりかねないだろう。
家電量販店の武器は価格である。同一商品が並ぶ家電量販の場合、お客様は買い回りをし、価格差に敏感である――この前提はある面で正しく、ある面で正しくない。
家電量販店を苦手という女性客は決して少なくない。家電量販店を苦手とする人にとって、リアルの家電量販店は、買い物を「楽しめる」場ではないことが背景にある。
リアル店舗の存在意義の再定義を
では、なぜ楽しくないのか。雑貨店や服飾店、あるいは100円ショップでもいい。買いたい商品にまっすぐ向かって手に取り、そのままレジに向かうだろうか。
何か面白い商品はないか、売り場を回ってみながら、いろいろな商品を手に取ってみるだろう。しかし、家電量販ではなるべく他の商品を見ないようにするというお客様の声も少なからず聞かれる。
この違いの理由としては、「家電は比較的高単価」「セルフではなく接客販売が基本」「他の業種に比べて利用頻度が低く、不慣れな空間」などが挙げられるだろう。
店舗が価格競争ばかり気にかけていると、「楽しさ」をお客様に提供できなくなる。売り場、品揃え、接客――家電量販店舗を構成する要素が、効率的な買い物の実現を目的に作られている。
しかしながら、楽しい買い物は、決して効率的ではない。趣味の買い物では、売り場をあちこち眺めながら面白いものはないか探したり、時には買うつもりのなかったものまで衝動買いしてしまったりする。時間も予定より費やしてしまうことすらある。
楽しい買い物は効率的ではなく、むしろ「無駄」が多いものだ。知らない商品との出会い、予算より高い商品の良さを知って欲しくなる――来店当初の期待を上回る「サプライズ」が楽しさを生む。価格はあくまでも最後の会計における判断要因の一つに過ぎない。
このような無駄のある買い物はネット通販では楽しめないものだ。店頭では手に入らず、安くて失敗してもいいようなものなら、思い切って遊び感覚で買うこともできる。しかし、高額な生活必需品などをネットで購入できる人はまだまだ限られているだろう。
リアル店舗が2020年問題を迎える中で生き残る活路はここにある。買い物という行動の本質にある「楽しさ」をいかに提供するか。これは単にエンタテインメントを強化するというわけではない。お客様の心に響く買い物空間を作ることであり、決して簡単に正解にたどり着けるものではない。
正解そのものすら市場環境によって変化するだろう。しかし、効率を重視し、価格競争に明け暮れてきた家電量販が今後も存在意義を確立するには、その解を求める試行錯誤が欠かせない。2020年問題を迎える中、リアル店舗が世の中にとって必要な存在であり続けるためのカギがここにある。