LR41。体温計に必要なアルカリボタン電池である。コロナ感染チェックをするために子供やお年寄りがいる家庭では必須アイテムだ。品不足が続いているマスクや除菌液、トイレットペーパーなどに隠れていたが、3月に入り、コロナ禍が強く叫ばれたあたりから現在なお品不足が続いている。
スーパーはもちろん、ホームセンターや家電量販店でも在庫が払しょく。電池売り場には「入荷未定」の張り紙が貼られた。近隣のスーパーや量販店を駆け回って無駄骨に終わった人も少なくないはずだ。
その話を人づてに聞いたのが東京都内の地域店。「ウチには(少し古いが)在庫はある」と早速、お年寄りや子供のいるお客宅に訪問し、ボタン電池を届けた。もちろん、無料サービスだ。
コロナウイルス感染拡大の中、東京都江東区の栄電気の取り組みが注目されている。お客がスーパーやドラッグストアではなかなか入手できない「除菌液」を30mlの小さなスプレーボトルに詰めて無料配布しているからだ。
スプレーボトルはアマゾンから1,200円(24本)で購入。ボトルのラベルには沼澤栄一社長の想いが書かれている。「コロナに負けない 乗り超えよう 頑張ろう」。特にお年寄りのお客には「街の電気屋さんからほっこりした贈り物をいただいた」と喜ばれている。
コロナ禍という非常時こそ、お客に寄り添りそう活動が大切。この時期、「お客様に何ができるだろう」と考えての沼澤社長の取り組みだ。お客にとって、「栄電気」は特別な存在になった。
キーワードは「返報性の法則」
返報性の法則という心理作用を表す言葉がある。人は何かしらの施しを受けたとき、お返しをしなくてはと思う気持のことだ。人間が本来持っている善意の表れかもしれない。
例えば、身近なところではフェイスブックの「いいね」。いいねをしてくれた人には「いいね」を押したくなる。自然に沸き起こる気持ちである。
もちろん、前述した家電店のエピソードは「返報性の法則」をビジネスシーンに応用した事例では決してない。大きな危機に見舞われたときの、被災者や弱者の立場に立った流通側の善意の行動以外なにものでもない。
結果として「返報性の法則」にかなっている訳で、ビジネスシーンにおいて、ある意味非常に合理的な行動といえるかもしれない。
家電市場は昨年10月の消費増税以降、前年同月比を上回ったのは今年2月(前年同月比103.9%)のみ。3月に入って市場は再び落ち込む。GfKジャパンによると、3月は前年比87.0%と大幅にダウンし、4月前半も90数%で推移している。
BNPパリバ証券は、4月7日から5月6日までの緊急事態宣言期間中に国内全体の消費が平時より17・9%減ると試算する。試算は6月ごろの収束が前提で、影響はさらに膨らむ恐れもあるという。
ただ、家電業界に限っていえば、中国の家電製品のサプライチェーンは8割方、回復しているようだ。パナソニック販社の幹部は「中国の工場が通常の状態に戻りつつあり、現在モノ不足の商品も6月には解消できる」と話している。
ただ、問題は冷え込んでいる需要を回復できるかどうか。その糸口をつかむきっかけは前述した、顧客ファーストの徹底にありそうだ。