大型店から小型店の時代へ
廃業は頻繁でも開業は珍しい地域店で、多摩地区を中心とした「100店舗構想」を打ち出している店がある。2年前の2018年5月に3店舗目をオープンした、東京都国分寺市に本店を構えるサン・オーツ(大津弘伸社長)である。家電のハード販売ではなくソリューションでドミナント展開を目指すという新しい地域店戦略を打ち出している。
家電店数のピークは1982年の7万1,283店。2020年にはピーク時の2割程度、地域店は1万4,000店に減少するといわれている。サン・オーツは1983年10月、東京都小平市御幸町で創業した。今年で37年目を迎える。
衰退期に入っている家電市場では地域店が有利と大津社長は説く。それを裏付けたのは、2018年5月にオープンした都内東村山市の「青葉町店」の成功だ。
まず、取り組んだのは市場調査である。多摩地区で65歳以上のシニア、新聞購読者、一戸建てに住む高所得者が集積しているエリアを洗い出し出店した。売り場面積は7坪程度、シャッター街の出店だ。物販よりもソリューションにウエートを置いていたので、売り場の規模よりも立地条件を優先したという。
新店のPRでは徹底した新聞折り込みのチラシ作戦を展開した。2カ月に1度、お客の手に渡るように、地元の新聞販売店に依頼。チラシのタイトルは「すぐ来て電気の110番メニュー」である。
具体的な内容は「電球の交換」「照明の取付・移動」「テレビや洗濯機、冷蔵庫などの移動・設置」「コンセントの増設」「スイッチ・コンセントの取換」「防犯カメラの設置」など家電や電気工事に関連する「困りごと」解決だ。
「エアコンやテレビなどの買い替えサイクルは10年〜15年。だが、家電や電気に関する暮らしの困りごとは日常的に発生する。できるだけお客との接触を増やすには困りごとのニーズをしっかりつかむこと。高齢客はチラシを保存してくれるのでチラシの費用対効果は悪くない」(大津社長)。
サン・オーツのチラシ販促は20年以上も前から現在まで継続して展開。全店で月3〜4万枚撒いて、月平均40件の新規客を獲得する。青葉町店もチラシで毎月15~20件、新規客を増加やし事業を軌道に乗せている。
「一番多いのはアンテナ工事や電気配線、コンセントの増設工事、その他大型家電の移動や設置などの依頼。昨年10月の台風19号ではアンテナの倒壊など、全店で30件近くの困りごと相談があった」(大津社長)。
ただし、困りごとから3~6カ月後に出向いても無駄骨になるケースが多い。新規客をハードの販売につなげるためには、提案のタイミングと工夫が大切と大津社長は話す。
「重要なのは困りごとを解決したときに、その場で提案すること。お客に嫌がられると思いがちだが、実はそうでもない。お客が心を開いてくれる絶好のタイミングだ」。
その場合、お客宅に入ったときにあらかじめ、エアコンや洗濯機などの大型家電や住まいの状態などをチェックすることがポイントだ。「故障していたり、傷んでいるところが必ず1つか2つはあるはずだ」(大津社長)。
究極の「ローコスト経営」目指す
一方で、大型家電の「点検サービス」も行っている。エアコンやテレビ、冷蔵庫などの購入客に対し、半年に一度機器を無料点検するサービスを行っている。顧客サービスと同時に、他の家電製品の調子、電気や住まいの困りごとなどを尋ねるのが狙いだ。
「100店舗構想」のモデル店として位置付けている青葉町店の大きな特徴は店長、従業員のいない究極のローコスト経営だ。常駐するのは女性パート1名。営業時間も従来の9時半〜18時、現在は10時〜17時に短縮している。支店から本店への電話の転送機能を利用することで、人件費コストを抑えた。
「店舗は顧客との信頼関係を築くために必要だが、店舗ではモノの販売ではなくソリューションを増やすのが目的」と大津社長。売り場の在庫も乾電池や電球、LED照明の他、アンテナケーブルやテレビ接続ケーブル、電源ケーブルなどの家電小物、消耗品、最寄り品などを中心に揃えている。