NTTの巻き返し策とは
1985年4月に国有事業だった通信事業が民営化され、通信事業者間の競争が促進された。それ以前、国内通話は電電公社、国際通話は国際電電(KDD)の2社が独占していた。しかし、通信事業の規制緩和により新規事業者が続々と参入してきたのである。
例えば、京セラ系の第二電電、JR系の日本テレコム、トヨタ系の日本高速通信などだ。まず、新規事業者は法人向けの200㎞超の「長距離電話通信料金」場に的を絞り、“巨像”NTTに挑んだ。NTTより「2割安」をアピールしてユーザーを囲い込む作戦に出たのである。
個人ユーザーに対しては、NTTを含む4社の長距離料金ではどこが「お得」なのかが分かる装置を家庭用電話機に設置。1円でも安い新規事業者への切り替えを促進していった。
民営化しても電電公社時代のお役人体質が染みついていたNTTは、第二電電など新規事業者の営業力や宣伝力、発想力などに付いていけず苦戦を強いられた。
「通信ドッグ」という困りごと相談
だが、局面が変わる。NTT埼玉本部が「通信ドック」という電話機の「困りごと相談」という一大キャンペーンを展開したのだ。埼玉本部の営業担当者と技術担当者が一体となって、「現在使われている通信機器や通信料金などでお困りごとはありませんか。無料で診断(点検)いたします」と法人、個人ユーザーをくまなく訪問した。
実際にユーザーを訪問してみると、新規事業者のウィークポイントが分かる。新規事業者に切り替えたユーザーの「長距離電話通信(200㎞超)」の使用頻度は少なく、むしろ「長距離電話通信(圏内)の使用頻度が多かったので、通信料金は切り替え前よりも高くなっていたのである。
この「困りごと相談作戦」でNTTに戻った法人、個人ユーザーが続出したという。NTTでは、この埼玉本部の「通信ドッグ」を全国展開し通信事業の巻き返しに成功した。
現在、街の電気店がお客への「困りごと相談」の対応を徹底することで、大型量販店に流出していたお客が戻ったという話や、新規客が増えたという話をよく聞く。冒頭に述べたNTTの「通信ドック」の電気店版といえるかもしれない。
家電のIT化やデジタル化が急速に進み、それに乗り遅れた中高年のデジタル難民が増えている。そうしたユーザーに対し、例えば「デジタルドック」という「スマホやパソコン、IoT家電、インターネットなどの困りごと相談」を展開すれば、既存客を呼び戻し、新規客を開拓するきっかけとなるだろう。
家電市場でいえば、エアコンやテレビなどの買い替えサイクルは10年〜15年。しかし、家電や電気、IT、暮らしに関する困りごとは日常的に発生する。お客との接触を増やし「困りごとのニーズ」をしっかりつかんでいけば、買い替え期を迎えた家電も自然に売れるはずだ。