補助金を活用して、どのように店の経営を活性化させるか。コスモス・ベリーズはこのほど、「Zoomライブ対談(挑戦する地域店と学ぶ)」を加盟店に配信した。テーマは「IT(デジタル投資)で蘇る顧客対応力」。対談したのは、K-DIC(富山県富山市)社長の黒田保光氏と共栄設備(千葉県船橋市)社長の片山誠司氏。いずれも補助金を活用し、自店の顧客対応力を高めることに成功している。「補助金はやりたいことを叶えてくれるツール」と両氏。どのように補助金を活用して自店の業務改善につなげたのか。ライブ対談の模様を再現しよう。
顧客対応力が大きな課題に
黒田 街の電器店の役割は地域を守る、お客を守り喜んでいただくことだと考えています。そのために我々は何をすべきか。補助金というものはまさしく、その実現を手助けしてくれるツールだと思います。
片山 同感です。僕が補助金に着目したそもそものきっかけは、お客様の増加なんですね。お店を構えている千葉県船橋市というのは典型的な東京のベッドタウンで、現在では高齢化が著しく進んでいます。中でも、車で家電量販店に行けなくなった高齢の老夫婦、独居老人が急増しているのです。
お客様の高齢化とともに、我々電器店の高齢化も進んでいます。つい最近も今年12月に店を閉める店主の方が挨拶に来られました。今年に入って商圏内の店仕舞いは3店目です。増え続けるお客様にどう対応していくか。それが大きな問題になっているのです。
黒田 お店のキャパ以上にお客様が増えると、顧客サービスの低下が懸念されますし、何よりも店とお客様のスムーズなキャッチボールができなくなります。
片山 お客様が増えるのは非常にうれしいことなんですが、それは僕を含めて3人の男子社員のオーバーワークにも直結します。社員の業務や作業負担を減らして、仕事の効率を高めるにはどうしたらいいか、そういうことも考えました。
黒田 仕事の効率化という点ではどのような課題が出てきましたか。
片山 お客様が増えるに従って、お客様からの問い合わせや相談、注文依頼などの「顧客対応力」が大きな課題となりました。例えば、エアコンの修理では、急いで型番を確認しなければなりません。そこで、アナログの顧客カードを引っ張り出したり、見積書や請求書などと照らし合わせたこともありました。当店の顧客数は約1,200世帯。スピード対応といった点ではお客様に迷惑がかかっていたのは確かですね。
売り掛けのチェックにもムダな時間を費やしました。経理担当の母と夜遅くまで、〇〇さんの売り掛けは△△円なので今月中に回収しなければ…、ということを始終やってたんですから。
補助金導入のプロセス
黒田 今もお店の顧客管理は店主のカンピューターというところが多いようです。ところで、片山さんはいつ、どのような補助金を活用し、何を導入したのですか。
片山 活用したのは経済産業省の「IT導入補助金」。中小企業や小規模事業者向けの補助金で、これを利用すると、ITツール(パッケージソフトとサービス導入費が対象)を導入する経費の一部を受け取れます。
2018年の補助金の予算は500億円。補助率は案件総額の2分の1以下、金額にして15万円~50万円。当店では2018年5月に補助金を申請、8月に「羅針盤」を導入しました。電器店向けの経営情報システムとして定評のあるメディアネットワークジャパン(東京都北区)のソフトウエアシステムです。
導入コストは112万円。上限いっぱいの50万円を受け取ることができました。念願の社員全員が使える親機1台、子機3台のクライアントサーバーシステムの導入です。
黒田 補助金活用にあたってネックのようなものはありましたか。
補助金活用で両親も軟化
片山 ネックというか、心配していたのは補助金申請の手続きです。手続きの書類が面倒というイメージもありましたから。でも、メディアさんは申請に必要な書類を用意してくれて、僕は申請に必要な項目を書き込むだけ。申請代行もやってくれたので助かりました。
補助金は両親の説得にも役立ちました。羅針盤は以前から注目していて、両親にもそれとなく導入検討をほのめかしていたのですが、金額が大きくてOKはもらえなかったのです。でも、補助金の話をすると、両親の態度が少しづつ変わって、羅針盤の話がしやすくなったのは確かです。
「ITツール」導入のメリットは
黒田 今回のテーマでもある「顧客対応力」を強化するためのIT投資は非常に重用ですね。僕も羅針盤を活用しているのですが、新入社員教育での顧客訪問の際、こんなことがありました。
情報も何ももたせずに、お客様への挨拶に伺わせたところ、話のきっかけを作ろうにも何もないので、相手にされなかったと…。でも、羅針盤から顧客情報を引き出して伺わせたところ、お客様の反応が変わったというのです。昨年、ご購入いただいた冷蔵庫の調子、いかがでしょうか。この一言で、お客様がきちんと対応してくれたというのです。新入社員も顧客情報の重要性を肌で感じたと思います。
片山 確かに、顧客データが手元にあればお客様との接し方が違ってきます。会話が弾むんです。そのやり取りでお互い信頼感のようなものが生まれます。
黒田 お客様から突然、「この前のアレ、すぐもってきてほしい」とよく言われます。でも、羅針盤にはメモ機能があって、お客様との会話をメモしておけば、「この前のアレ」も簡単に見つけられるんですね。
富山の冬はとても寒くて、お年寄りは石油ファンヒーターをガンガンつけて、炬燵に入って厚着をしています。冬なのに、部屋の中は熱中症になるくらいの暑さ、これでは体を壊してしまいます。顧客情報がしっかりしていれば、おじいちゃんは快適な暖房を得られ省エネにもなるので、窓を二重サッシにしたらいかがですか、という提案もできます。
「お客様にこうしてあげたいと願うこと」が、当社の営業の定義ですが、それを実現するには、顧客情報が非常に重要です。
上限いっぱいの1,000万円を獲得
片山 黒田さんはいろいろな補助金を活用しているとお聞きしました。ぜひ、我々の仕事につながる補助金を教えてください。
黒田 当店は2017年末に改装しましたが、その時に活用したのが中小企業庁の「ものづくり補助金」(革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金)です。改装の投資額は2,000万円、補助金は上限いっぱいの1,000万円をいただきました。かなりの大きな金額です。
ものづくり企業に人気の高い補助金ですが、製造業以外でもサービス業、小売業、卸売業など申請内容次第では応募できます。思い切って、チャレンジしてみました。
というのも、どうしても店内にIoT家電やそのシステムを実際に試せる、IoTの体験ラボを開設したかったのです。冒頭、お話したように、街の電器店の役割は地域のお客様を守って喜んでいただくことです。そういった意味ではお年寄りに優しいIoTの体験ラボは必要不可欠だったのです。
申請は県内の補助金申請請負会社にお願いしました。でも、片山さんのケースとは違って、難しいといわれました。それならばと申請書は自分で作成しました。
ただ、申請書は銀行や商工会議所などのサポート機関のハンコが必要です。ハンコは地元の商工会議所でもらいました。幸い、そこで「新世紀産業機構」という県の機関の方を紹介してもらい、さまざまな視点からの意見を参考に申請書を修正できました。金額が金額ですからとても有難かった。こうした補助金を獲得するには、行政の力も必要だと痛感しました。
片山 最近ではどのような補助金を活用されましたか。
黒田 最近はドローンの助成金を活用しました。太陽光の設置はもちろん、屋根や瓦の修理、アンテナの設置やメンテ、修理、倒壊したときの修復などにドローンは非常に役立ちますから。
また、ホームページのリニューアルには、日本商工会議所が出している小規模事業者持続化補助金を利用。最大50万円の補助金がもらえます。
片山 当店では現在、従業員の採用を検討しており「雇用調整助成金」をチェックしていますが、我々地域店の仕事まわりにはさまざまな補助金があるんですね。ありがとうございました。
黒田 こちらこそありがとうございました。
(敬称略)